(本当は2カ月前に書くつもりだったんだけどネ!)
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今回紹介するのは『言葉の力 読書の歴史』という作品です。
2009年にカナダのノマド・フィルムで制作されたDVDで、全4巻。
1巻あたりの値段は18,900円。時間は各52分。
日本語字幕は株式会社ポルケ、販売は紀伊國屋書店です。
アルベルト・マングウェルを案内役として
(「読書の歴史 あるいは読者の歴史」という本を執筆しており、そのレビューはインターネット上にもちらほら)
読書との向き合い方や魅力、必要性などについて描いた作品です。
一言でいえば、読書の歴史にまつわるドキュメンタリー映画と考えるといいかもしれないです。
上映会をやっている図書館もあるようだし、
「読書」に興味を持っている一般の方が見ても楽しめる内容だと思います。
個人的には、司書課程を勉強する学生くらいが適したレベルだと考えてますけど。
4巻のDVDはそれぞれ異なったテーマを持っています。ざっとこんな感じ。
ホントは細かくメモをとったんですが、まとまりきらなくなるので簡単に。
- 第1巻『読書の魔法』
- 第2巻『読書の可能性』
- 第3巻『禁じられた読書』
- 第4巻『読書の未来』
文字を使う文化・文明の発達にまつわる歴史と、
「記録をする」「集めて保存する」「読む」ということの意義についてまとめられています。
ラスコーの壁画、メソポタミア文明のくさび形文字&粘土板、
"ギルガメシュの叙事詩"の紹介から始まり、
新アレクサンドリア図書館の創設者による「知識を手に入れる環境の必要性」の解説、
知識の保存にキリスト教と修道僧が果たした役割や、
"聖書を自分の頭で解釈する"という読書法への変化、
内戦の続くコロンビアで活動している「ロバの移動図書館」の話などがあります。
個人的には、
"正しい書物の読み方"を考えるために作家A・J・ジェイコブズがおこなった
聖書の教えを実際に全て守ってみるという体当たり企画が面白かったです。
「聖書ほど間違って理解されている書物もない(だからみんなが正しく同一の理解することは難しい)」
という結論に達してましたけどね。
この巻を授業で使うなら、
図書館史で西洋の歴史を一通り勉強した後に見せるのがよさそうです。
読書ができないとどうなるのか、読書をすることで何が起きるのかがテーマ。
文字が読めない、本がないことが引き起こす不便について事例を交えながら紹介しつつ、
最後は「読む」という行為を脳科学的・神経学的にとらえて解説もします。
カナダで先住民族に行われている読書支援活動から、
(先住民族以外も含めて、カナダでは成人の6人に一人は文字が読めないそう。)
ポンペイ遺跡で発見されたパピルス荘といわれる図書館の解説、
読書を巡る「J・G・ハインツマン vs D・ディドロ」の論争を再現した演劇、
絵文字的言語(漢字とか)と西洋のアルファベットに使われる
脳の領域についての検証(脳の使い方は違うらしいですよ。)など。
文字を知らずに苦しんできたミセスの言葉、
「郵便物さえ親戚の家に行って内容を教えてもらわないとわからない。
文字が読めないことは外に出られないことと同義で、
引きこもるしかないから外の世界を知らない」(意訳)に衝撃を受けました。
そして締めの言葉として語られる、
「満ち足りた人生へのパスポート、それが読書なのです」という言葉の重み…。
識字や読書の重要性、効果について実感ができる一本。
司書課程の授業で使うなら児童サービス論や学校図書館系の科目でしょうか。
「検閲と表現の自由」の話。
表現の自由の必要性やその難しさ、貴さが描かれています。
イスラム教の予言者を(風刺的に)漫画に書いたことによるデンマークの暴動や、
「ボヴァリー夫人」「チャタレー夫人の恋人」などに代表される性的なために禁書とされた本をを巡るいざこざ、
ナチスドイツを巡る諸々の言論統制とべーベル広場の焚書の映像、
バングラディッシュ、インド、トルコ、エジプトなどの政治的な弾圧と検閲、
(エジプトは政権崩壊前の話であることに注意が必要)
ネットワークのアクセスブロックや検閲を回避してアクセスを確保する研究についての説明など。
最後に、Googleが中国政府の検閲に荷担しているのでは?という話も少し出ていたけど、
2010年には状況が変わったのでDVDを見るときは補足が必要でしょう。
命を狙われる恐怖から生まれる「自己検閲」は検閲ではないのか、
他者が不快に思うことを書いても表現の自由として許されても良いのか。
なんとも難しい問題です。
法律で権利を認められている日本で「表現の自由」を叫ぶ人のうち
それまでの人生を捨て、土地を失い、命を狙われ、住むところを転々としながら
戦い抜く人が何割いるかわからないけれど、
その数字がはっきり示される日はこないで欲しいものです。僕だったら自信ないですから。
授業としては「図書館の自由」の話とセットで使うと良さそうです。
「資料保存とその体制」が作りだす読書の今後について。
ドイツのマインツにあるグーテンベルク博物館で技術者が金属活字の解説したり、
修復家が酸性紙、木材パルプの問題について説明したり、
フランス国立図書館、アメリカ議会図書館の取り組みを紹介したり、
物語の進め方を読者が選ぶという体験型小説「誰でもアリス」の作者や
日本の携帯小説家ヤノ・フミ氏と読者、出版社へのインタビューなどがあります。
(時間がなくてあまり調べられなかったので、このあたりはよくわからなかった)
あとグーグルの電子ブックプロジェクトについて、
一企業に任せるというのはどうだ? 利益に走ったらどうなる?
という公共性や安定性の話なども出てきます。
もちろんそれほど専門的な話ではないですけども。
もし授業で使うなら、図書館史の最後や図書館情報資源概論などが良さそうです。
自分の授業のどこに組み込むかは悩ましい問題ですが、
知的なものを好む学生には受けそうなDVDですので、積極的に見せたいです。
入手可能な方は一度ご覧になってはいかがでしょうか?
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