ふるさと納税として図書館に流れているお金は見えるのか

2024年2月10日土曜日

調査

t f B! P L

はじめに

節税のためにふるさと納税として寄付を行う人は少なくないことでしょう。
ふるさと納税で寄付をするときは、寄付金の用途を選べたりします。
個人的には、どこかで何かをしてくれるであろう若者へ投資して愉快な世界を夢見たい、
教育機会はできるだけ等しく存在してほしいという気持ちがあるので、できるだけ教育分野を選択しています。
そしてふと、ふるさと納税を通して、どのくらい図書館にお金が流れているんだろう?
そんな疑問がわいてきたので調べてみることにしました。

どう調べるか

職場にある『日本の図書館 統計と名簿』『図書館年鑑』の新しいものを見ても、特に寄付金がどのくらい充てられているかについて記載はなさそうでした。

総務省が公開しているふるさと納税 関連資料として、「令和5年度ふるさと納税に関する現況調査について」という資料があり、その中に「令和4年度受入額の実績」というエクセル形式のファイルがあったので見てみたところ、全国各自治体から報告された寄付の件数と金額を用途のジャンル(例えば、"教育・人づくり"や"子ども・子育て"など)ごとにまとめてありました。

「図書館」のような細かい単位で集計されているわけではありませんが、
(1)ふるさと納税を財源として実施した事業のうち、特に力を入れているもの3つについて概要や充当金額を記載する欄
(2)同じくクラウドファンディング型のふるさと納税を実施した場合の、事業概要や目標金額、寄付金額の受入実績を記載する欄
(3)寄付金の使途の選択について回答する欄
がありましたので、そこに記載されているものを絞り込めば、
少しは検討材料にできる数字が出てきそうなので、使ってみることにしました。

データをながめてみると

先にこの調査方法で見えないことを記載しておきます。
  • 上記(1)(2)は、ふるさと納税の寄付として分野や事業を選択できると回答した自治体のみが回答する欄なので、寄付金が自治体の一般財源にされた後に図書館へ流れるお金は見えない
  • 上記(1)(2)の主要な3つに含まれていない事業はカウントされない(主要な事業扱いされていないのに大金が流れているとは考えにくいけど)
  • 上記(1)~(3)で図書館も含めた大きな事業として記載されている場合、図書館分が把握できないこともある

ということで、この調べ方でわかるのは、最大値でも最小値でもなく、このくらいの金額が流れているかも、というイメージだけですが、できる範囲のことをやりましょう。
個人的な興味を満たすにはこれで十分ということにしました。
1人でデータをいじってると単純なミスもあるかもしれないけど、そこは仕方ないということにします。

対象を絞るにあたり、「図書」または「図書館」または「読書」という文字を記載した自治体のデータのみ扱うことにしました。「センター」というワードは無関係な場合が多そうなため含めませんでした。個別の自治体のデータをじっくり見ると、関連する事業は他にもあるかもしれません。

上の時点で129自治体が対象ですが、いくつか処理をしています。
・「図書券」の配布事業を行っていた1自治体の除外 (関係ないので)
・充当金額が受入金額より大きい3自治体の除外 (整合性が怪しい)
※寄付金額のうちの充当金額ではなく、自治体のうちの事業への充当金額(ふるさと納税による寄付金に限らない事業費総額?)のようなものが書かれているようです。少し古いけど平成27年だかに沖縄県が総務省に似たような書式で回答している資料でも、「事業費のうちふるさと納税充当額」を回答する欄となっているし、資料の性質からしてみても、充当金額が寄付金合計より多くなる3自治体は除外が妥当と判断しました。他にもそのような回答をされた自治体もあるかもしれませんけどね…。
・金額に(仮)と書かれている場合も1自治体あったがそのまま合計
・充当金額0円と記載した2自治体は特に除外していない

そして集計にあたり、上の(1)(2)(3)の金額は以下のような扱いとしています。
A.(1)はそのまま金額を集計した。1自治体が図書館に関係しそうな事業を複数挙げている場合はそれぞれ集計した。
B.(2)は(1)と重複していない事業と考えられる場合に集計した。
C.(3)は(1)および(2)に事業を記載していない場合に集計した。

結果は

以上の結果、記載された1788自治体中(市町村だけでなく都道府県という単位の記載もある)、対象となったのは126自治体で、図書館に16億245万1840円流れているらしい、ということになりました。

とはいえ、上の除外パターンに書いた通り、特に施設整備系の金額は寄付金の充当金額ではない可能性がありますし、図書館と関係ない事業とひとまとめにした金額が書かれていることも多いので、最大で16億、実際はもう何億か少なかったりするかも?という印象です。
しかしながら、桁が減るほど現実と離れているわけでもなさそうな気がするので、
それなりの金額が流れているとは言えそうです。
とりあえず本はいっぱい買えそうですね。

このままだと手間のわりに結果がさみしいので、
もうひと手間かけて公共と学校,両方のパターンにわけてみることにしました。
数字としては以下の通りです。

  • 公共図書館:89自治体、計8億6068万1569円(中央値:336万4000円)
  • 学校図書館:35自治体、計4億7913万8565円(中央値:581万3259円)
  • 両方:6自治体、計2億6263万1706円(中央値:624万6853円)
 公共図書館には、生涯学習とか市民サービスとか町営とか,学校へのセット貸し用の図書購入とか、ブックスタートらしき事業を含みます。あと「図書館」とだけ書いてあった場合も公共に含めることにしました。きっと役所で働く普通の公務員にとって図書館とは自治体の図書館だろう、ということで。
保育園・幼稚園・こども園は微妙ですが、他に一緒に記載されているのが学校だったらそちらに、そうでなければ公共に含めています。

本当は寄付金の用途も分けてクロス集計にしてみようとしたのですが、
複数の用途が挙げられていて不可分なことが多いため断念しました。
主な用途は、図書館運営費、建設費、メンテナンス費、図書購入費です。
図書購入費の場合が多いです。予算を余らせずに使いやすくて良いですよね。

興味がわいたのは、スカイツリーのお膝元で、
災害対応型リヤカーによる移動図書館実施のためにお金を使っている事例です。
たぶんこれですね。
https://www.city.sumida.lg.jp/kuseijoho/kouhoukatudou/kodomo-pr-taisi/katsudoukiroku/2021/hokusaimaru.html
ソーラーパネル、蓄電池、USB充電器、夜間照明、携帯トイレ、殺菌装置までついている高性能リヤカーです。都会でこそ普及してほしい!
充当金額としては302,000円と書かれているので、それ以上の費用がかかっているのかもしれません。図書館が大好きな人は真似して作れるかもしれないね!

あと、ふるさと納税で有名な大阪府泉佐野市は、よそと明らかに毛色が違い、137億円集めて1.1億円を学校図書館に使っています。しかも事業の説明に「子どもたちのより良い読書活動の環境整備のため、各校の蔵書数の約1/3程度更新。また、図書室内の運用方法をシステム化し、本の蔵書管理や貸出・返却が容易にできる学校図書館システムを改修整備に合わせて導入。令和7年度までに全校で実施予定。」と書いてあります。蔵書の大規模入れ替えにしてもシステム導入にしても、けっこう気前よく使っている数字に見えます。
令和4年度に一番ふるさと納税のお金を集めたのは宮崎県の都築市(196億)のようですが、残念ながら図書館に対する言及はなさそうでした。とはいえ、軽い気持ちで図書館を何棟か建てられるくらいの規模なので、この調査では見えなくても、実は図書館関係にお金じゃぶじゃぶを使っている可能性があります。

おわりに

日本図書館協会とかの統計で「寄付金」という費目を回答してもらうようになれば
もう少し正確な情報が出てくるのかもしれないけど、
そうすると学校分やら図書館でない公共施設の分は抜けそうだし、難しいものですね。

日本がアメリカほどに寄付の盛んな国になるとまでは思っていませんが、
自治体でも寄付金獲得戦略を立てる必要性は少しずつ高まっているようです。
そして自治体の中での資金獲得競争にも勝たないと図書館にはお金が流れにくいことでしょう。ふるさと納税では寄付金の用途が選べるので、どうやって直接図書館を選んでもらうのかが戦略としても重要になるんでしょうね。魅力的な返礼品ってなんでしょうね?

今回の調査では、もっと多いかもしれない理由も、もっと少ないかもしれない理由も想定されたため、結果となる金額自体にそこまで高い信頼をおけるものではないと考えていますが、それでも今までより見えるものは増えたのかなと思います。
願わくば、この記事がいつか誰かの役に立ち、そして教育や図書館により多くのお金が流れますように。

広告

自己紹介

自分の写真
ある日突然図書館司書資格関係の科目を教えることになり、司書と司書教諭の必要科目の大半を担当していました。次に図書館関連の道具を販売したり建築・改築をする仕事に転職し、図書館の機械化部門で図書館システムやらIC関係の仕事をしました。現在は大学図書館の司書(大学病院図書室、電子資料契約、RDM等の担当)として勤務。 ブログは教員のころに始めたものなので、当時からするとコンセプトは大きくずれているけど、まあよしでしょう。 博士(図書館情報学)。

ページビューの合計

このブログを検索

人気の投稿

ブクログ

QooQ