はじめに
看護研究を行う看護師さんに必要かと思い、病院図書室の蔵書として「心理学大事典」という本を買いました。わかりやすく書かれていて個人的には気に入っています。しかし残念ながら思ったより使われていないし、事典や図鑑を読むのも好きなので、図書館運営に活かせる手がかりを求めて通読してみることにしました。前からやりたかったので実行できて良かった。
心理学的な法則等については、簡略化された説明を読んだくらいでは、ハリウッドザコシショウさんの誇張モノマネみたいなレベルの拡大解釈になりそうですが、学術研究ではなく実務上役立てば良いので考えすぎないことにしましょう。
記述の方法
役立ちそうな方向に分けて書いてみることにします。《 》が本に記載された項目名、[ ]がその説明を簡単にまとめたものです。
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あとは[紙に書いた目でも防犯的な抑止力が期待できる]という《偽物の目(p.313)》の話も興味深かったです。よく車の後部とかに歌舞伎の隈取みたいな目のシールが貼ってあるのを見ますが、きっとそれもこの目の効果を期待してのことだったんですね。水曜どうでしょうステッカーみたいなものだとばかり思っていた。図書館は平和を象徴するような施設かもしれませんが、日々の運営は平和にあらず。職員は、稀に起きる犯罪や迷惑行為、資料の盗難などと水面下で戦っています。防犯カメラも大切だけどコストとか場所の問題がある、というときに役立ちそう。とはいえ、図書館に隈取りシールだと圧が強すぎて苦情も来そうだしなんか嫌です。場に溶け込みつつ、抑止につながるような目とは… 図工室のモナリザか音楽室の音楽家みたいな感じなら周囲に溶け込みつつ圧をかけられるか? 歴代館長の写真も使えるのかもしれないですね。
施設・設備系
建物というかハードウェア面では、まず《符号化特定性原理(p.194)》が気になりました。これは、[学習した時と同じ環境におかれた方が思い出しやすくなる]という法則だそうです。資格のためとか、何らかの試験の準備のために図書館で勉強している人も多いかと思いますので、本番環境に似た環境を用することで、より利用者に喜ばれるような気がしますね。試験環境ってそんなに特別な空間だっけ?とは思うものの、医学部だとOSCEだのCBTだのといった重要な試験が存在するようなので、それらの準備につながる席を作ってあげたら面白いのかな。本当に効果があることはもちろん大切なことですが、特に悪い影響はなく利用者が喜びそうなことであれば、効果の真偽にかかわらず集客には良いかもしれません。
あとは[紙に書いた目でも防犯的な抑止力が期待できる]という《偽物の目(p.313)》の話も興味深かったです。よく車の後部とかに歌舞伎の隈取みたいな目のシールが貼ってあるのを見ますが、きっとそれもこの目の効果を期待してのことだったんですね。水曜どうでしょうステッカーみたいなものだとばかり思っていた。図書館は平和を象徴するような施設かもしれませんが、日々の運営は平和にあらず。職員は、稀に起きる犯罪や迷惑行為、資料の盗難などと水面下で戦っています。防犯カメラも大切だけどコストとか場所の問題がある、というときに役立ちそう。とはいえ、図書館に隈取りシールだと圧が強すぎて苦情も来そうだしなんか嫌です。場に溶け込みつつ、抑止につながるような目とは… 図工室のモナリザか音楽室の音楽家みたいな感じなら周囲に溶け込みつつ圧をかけられるか? 歴代館長の写真も使えるのかもしれないですね。
資料管理系
[所有者は価値を高く見積もりがち]な法則を《保有効果(p.324)》と呼ぶそうです。いわゆる「思い出補正」もこの仲間でしょうかね。図書館では、資料寄贈の申し出もよくありますが、資料を持ち込まれた際に語られる「これは大事なものだから」を信じきってはいけないということです。客観的に見た価値を計って考えなくてはいけませんね。[戻ってこない費用に惑わされて不合理な判断をする]ことを《サンクコストの錯誤(p.363)》と呼ぶそうです。使わない資料を置いといても、蔵書点検の対象が増えるとか、新しい資料の置き場所を検討しなければならないとか、保管コストの方が高くつきそうです。ところが、資料を廃棄するタイミングはなかなか難しく、なんだかもったいなくて捨てられないというのもよくあります。資産としては減価償却にならないですしね。書架狭隘化の事情でもない限り捨てる必要性も薄いと思われがちですが、そんな時はサンクコストへの未練がないかなども考えることが重要になりそうです。
なんか研究テーマとしても面白そう。
サービス・事務仕事系
少量多品種を地で行く図書館において《選択麻痺(p.347)》は切っても切り離せないものと感じました。これは[選択肢が多すぎると結局何も選べない人が増える]という現象を指しています。膨大な数の資料や情報を集めた上で活用を目指す図書館にとって、宿命ともいえる問題でしょう。 資料のリストを作ったり、赤ちゃん用にブックスタートで絵本を配ったり、本の福袋をやったり、当たり前のようになんとなくやっている日々の仕事は、選択麻痺にかかって選べなくなる人のハードルを下げることに役立っているようです。普段あたりまえにやっていることも、こうして再確認すると、なんだかすごいことしてる気がしてきますね。[まわりも自分と同じだと思う考え方]のことを《フォールスコンセンサス(p.163)》と呼ぶそう。利用者にいろんなサービスの使い方を教えるのも仕事のうちですが、自分のわかっていることはついつい周りもわかっているような気がして省略しがち。このくらいはわかってるでしょ?と無意識で考えてしまっています。ここはPCメーカーのヘルプデスクのように、「まず電源のプラグはコンセントにささっていますか?」から確認することが必要なのかもしれないですね。
[あるものの共通点はすぐわかっても、ないものの共通点はなかなか探せない]という《欠如しているものの無視(p.162)》の話や、[最初と最後が記憶に残りやすい]という《初頭効果/親近効果(p.193)》、[最初に設定された状態を維持してしまう]という《初期値効果(p.342)》や《現状維持バイアス(p.325)》、[比較するものがあることで選びやすくなる]という《コントラスト効果(p.343)》なども、サービス提案や資料作成で知っておくと役立ちそうな気がしました。ビジネス書などでも載ってそう。
契約系
電子資料やサービスについて、価格設定前のテスト運用の相談を受けることがあります。いくらならみんなが買いそうかといった意見もお話させていただいたりしますが、[交渉時の初期位置を決めたほうが有利になる]という《アンカリング効果(p.330)》を踏まえると、決定権はなくても、価格決定において有利に事を運べるのかもしれません。また、《クーポン(p.362)》は価値感受性がどの程度あるか見定めるために使われるものだそうです。あまり意識したことがなかったけど、クーポンが使われてないけど売り上げは上がる、という環境だと売る側は値下げを考える必要がないと判断しそうなのは確かです。図書館がクーポンを撒くことはあまりなさそうだけど、コンソーシアムを通した契約を実施することなんかは、少しでも価格を下げてもらわないと困るという図書館の実情を販売側に理解してもらうために重要な役割を果たしていそうですね。
あと、人間には[損失の方を極端に嫌う性質]《損失回避性(p.323)》があるというのも、知っておくと何か役立つかも。
運営・人材育成系
図書館に限らない話ですが、いつだって表に裏に協力者は欲しいものです。その際、[してあげたことは返されやすくなる]という《返報性(p.298)》、[何度も会えばポジティブな印象となる]という《単純接触効果(p.311)》に基づく戦略は、キホンとして大事なんでしょう。他にもいろいろな効果が記載されていますので、人付き合いや交渉術をふまえるために読んでみるとよさそうです。ポジティビティとネガティビティの比率のことを《ロサダ比(p.379)》というそうで、ネガティブより約3倍ポジティブな発言が多いとチームのパフォーマンスが高くなるという話もあるようです。強いチームは後ろ向きな空気では作れないらしい。
[周りに見られていることにより力を発揮できること]を《社会的促進(p.264)》と呼ぶそうで、《ザイアンスのゴキブリ実験(p.265)》という項目の説明では、ゴキブリにもそういった性質が見られると書かれていました。敵でも味方でも同種が近くにいれば何らかの影響は受けるだろうけど、本当なのか…。なお、行為者が習熟していることであれば力を発揮するが、習熟していないことを人前でやる場合は見られることがプレッシャーになってしまう様子。どうやら諸刃の剣らしい。 部下に何か発表や報告をさせるなら、慣れるまで練習に付き合ってから送り出さないといけない、ということなんでしょうね。
《モチベーション(p.236)》には内発的動機づけ[活動自体を目的として、そこから得られる満足以外の報酬を期待しない]と外発的動機づけ[外からの報酬や罰が行動の原動力となる]について記載されていました。《自己目的的パーソナリティ(p.237)》[内発的な動機で動く人間の性質のこと]、《アンダーマイニング効果(p.238)》[外発的な報酬により、かえって内発的動機づけが低下する現象]等の項目も読むと、給料等を目的にすえて仕事をするのではなく、好奇心を満たすことや、成長することを目的に仕事をして、人生を楽しみたいものだと感じました。
その他
《脳内の見える化(p.34)》という項目では、[fMRIなど、脳内の動きを可視化する最新テクノロジーにより脳内の見える化が進んでいる]という説明がありました。ずいぶん前に読んだ記事で、確かに脳内でイメージした文字や画像を読み取れそうな話もありましたし、声に出したり文字を書かなくても、検索をできる可能性はあるのかもしれません。[喉元まで出かかっているけど言葉が出ないようなこと]を《TOT現象(p.197)》というそうなのですが、 いずれ言葉は出なくても、脳内に思い浮かべた何かを、そもそも言語化せず検索してヒットさせる、そんな未来も来るのかもしれません。MRIの画像を大量に集めるなどしてパターン認識で処理すれば、それなりの精度のものになりそう。というか、実現してほしいです。最近物の名前が出なくなってきたし…、加齢から逃れられる気がしない。[誰かがやっているだろうと考えて手を出さないこと]を《傍観者効果(p.263)》と呼ぶそうです。図書館業界のコアなことは誰かがやってるから大丈夫という前提で、それ以外のことを気ままにやってるこのブログは、傍観者効果の産物だったのかもしれません。なんということでしょう。そしてこれからも図書館業界の傍観者として生きていこう。
ところで、何年か前に勤務先の図書室が病院内の建物から敷地内の別の建物に移転してしまったんですが、院内にあったころは時々エマージェンシーコールがなっているのを聞きました。聞こえたら全員が何らか発生した場所に走っていかなきゃいけないみたいで、今思えば傍観者効果を確実に防ぐためのルールだったんだろうと合点がいくところです。傍観を防ぐには全員が動くこととし、効率を重視してはならないということのようです。
図書館においては、サービス担当だけに任せた傍観者になっていないか、全員が組織としてまとまり対応を考えられているか、自戒して考えるべきなのでしょうね。
おわりに
1対0.7の法則とか、首振り実験とか、他にも面白い語がいろいろ書かれていました。やはり事典の通読は良いです。短時間に大量の知識が頭に流れ込んでくる感じが、高いタイパを誇る気がします(※ほとんどの知識が意識下には残らないので、実際のパフォーマンスは低そう)。今後遊びで試す研究の種も増えそうだし良かった。
今回またひとつ図書館を楽しく捉えなおすことができました。そしてこのブログが、内発的動機づけと傍観者効果の産物であるという位置づけも確認されました。 実際に図書館運営に役立たせられそうなのはごく一部でしょうが、きっとそのうちどこかで役に立つ日も来るでしょう。
願わくば、この記事にたどり着いた方の役にも立つことを祈ります。
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